中長ブログ - sakaguchiさんのエントリ |
2011/05/14
本格恋愛陸上小説『蘭』第4話
執筆者: sakaguchi (20:48)
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『監督、5000mポイントはどうですかね??阪口とかは??』 名大OGである小山は監督に尋ねた。 『天才であるが故の辛さ。それを阪口ほど味わってきた男はいないだろう。 天才が故に常にリーダーとして、 仲間を鼓舞する態度を求められ続けてきた。 天才が故に常に父として、 仲間をいたわることを求められ続けてきた。 天才が故に常にエースとして、 チームを勝利へ導く走りを求められ続けてきた。 そしてその期待に応え続けてきた。 5年間、それらの期待を背負い続けるという事は、20歳そこそこの 青年にとっては非常に酷な事だったと思う。しかし、阪口は背負い 続けてきた。天才であるが故に。 可哀想な事をしてきたと思う。非常に申し訳なく思う。 あれほどの男であれば、私が過度のプレッシャーを与える事さえなかったら…』 巨大な入道雲に覆われ、日差しの強かった競技場は一瞬影に包まれた。 『私が過度のプレッシャーを与える事さえなかったら、今頃阪口は、 大学院生にしてアルツハイマー病の原因タンパクの機能発現メカニズムを発見し、 ノーベル生理学賞を受賞していただろう。さらに世界をまたにかける超大企業から内定をもらっていただろう。 また早く就職活動が終わった事によって空いた時間を用い世界中を旅し、陸上競技の 素晴らしさを世界中の子供達に広めるというボランティア活動に努めていただろう。 さらに就職後は10年間で代表取締役までのぼり詰めると、若干34歳でもはや不毛 と呼ばれたIT企業を周囲の反対を押し切り設立、見事それは成功し40歳で億万長者となっていただろう。母親にマッサージチェアを買っていただろう。その後政界へ進出。「もう金儲けは飽きました(笑)」はその年の流行語大賞となるだろう。様々な改革の後、惜しまれながらも60歳で政界を引退。地元飛騨高山の静かな農村でトマトを作りながら静かに余生を過ごしていただろう…』 『監督…』 みな何も言えずうつむいていた。阪口に期待をし過ぎていた…それは皆同じであったからである。 『あっ、見てください。』 飯塚が指差した先、そこには晴れやかな顔でたっている阪口がいた。 『阪口のあの顔…。 阪口は今初めて、自分の為に走ろうとしています。周りの為とか、チームの為といった事じゃなく、自分の為に走ろうとしています。 あの顔は…そういう顔です!!!』 雲の切れ目から光が差し込み、スタートラインを明るく照らした。 『そうだ…。それで良いんだ。』 軽く涙ぐみながら洋治はつぶやいた。 2011年5月15日。天気晴れ。風速3m、北北西。湿度61%。 『ON YOUR MARK……、BANG!!!』 To be continued… |
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